2017/03/04

インフルエンサー

Gから久々にLINEがきた。
S女学院のダンスチームの発表会を観に行かないか?という

S女学院は、ここ数年ですっかり名門になったお嬢様女子校。
それほど興味があったわけでもなかったけど、
なかなか、あの敷居の高いS女学院に入ることもないので
OKと返事をし、一緒に行くことになった。

待ち合わせのベローチェに入ると、Gはすでに着いており、
スマホをいじりながら、ロイヤルミルクティーを飲んでいた。
そして、いくつか、たわいのない会話をした。
Gはダンスチームにやたら詳しいみたいだ。

Gは自分のことを、インフルエンサーだと言った。
僕はサイレントマジョリティーらしい。
インフルエンサーって乃木坂の新曲だし、サイレントマジョリティーは欅坂のデビュー曲だし、その用語使ってみたいだけだろ!と思った。
Gはそういう男だ。

Gが、わざわざ今日誘ってきたのは、
レドベルというダンスチームがお目当てらしい。

僕は、レドベルのことは、かろうじて名前を知っている程度。
何人なのかは知らない。
ただ、Gいわく、名門校だけあって
そのクオリティの高さは折り紙付きらしい。

会場に着くと、若い女の子たちで一杯だった。さすが女子校。

しばらくして、レドベルの発表が始まった。
それは、僕が予想していたものとは大きく違った。

以前ほかのダンスチームを見たことがあったけど
その子たちは、ピチピチのパンツに体のラインのはっきりした服を着ていた。
(そのパンツは、びっくりするぐらい股上が深い)
そして、観ているこっちが恥ずかしくなるような、
セクシーといえばいいのか、尻脚強調といえばいいのか、その手のダンスを踊った。

レドベルはまったく違う。
女子校の清楚さを残しつつ、独創的でかわいらしいダンスを踊るチームだった。
これは面白いな。僕は一瞬でとりこになった。

隣で腕組みをしながら、評論家のようにレドベルを見ていたGが久々に口を開いた。

「ああいう女子受けのいい子は、結構しっかりしているようで、しょうもない男と付き合ったりするから俺らだってワンチャンあるよ。」

どう、ワンチャンあるのかわからなかったが、なんとなくそういうものかなと思った。

レドベルを観ているうちに、僕は、
肩幅がせまく小さい身体ながらも、大きく踊る一人の子に釘付けになった。

「ほらほら、あれがアイリンだよ。あの子がこのチームのエース。テヨンに似てるだろ。」

「ほんとだ。テヨンに似てるね」
そう言われたら、テヨンに似ている。テヨンは上級生のもっと人気のダンスチームの子。
インスタが人気で、僕のまわりで知らないやつはいない。
レドベルは、全員がなんとなく似たような顔をしていたが、
その中で、アイリンは特にテヨンによく似ていた。
ほんとによく似たものだ。

「あれ、実はテヨンなんだぜ

あれ、実はテヨンなんだぜ」

Gはなぜか2回言った。えっ嘘っと思ったけど僕は何も反応しなかった。
驚き過ぎて、言葉がでなかったのかもしれない。
少しハッとしたような、そわそわした気持ちで、目はアイリンを追いつつ、耳だけはGの次の言葉を待った。
Gは、少しためた後、中居くんみたいに、軽いため息で前髪をふかして、こう言った。

「テヨンはテヨンだけど、最新のテヨン。
最新になると、ダンスの切れが増すんだ。仕様かな」

Gがなにを言っているのか、全くわからなかった。
最新のテヨン?なんだそれ?最新のテヨンは、最近youtubeで見た。
一人で歌っていた。
前よりメイクが濃くなった気がした。
全く意味がわからない。

「なに言ってだよ」
さすがに、ツッコんだ。
すると、Gは、あごをさすり、少しにやけながらも
ややめんどくさそうに話しを続けた

「ジェシカ知ってるだろ」

「ああもちろん」
ジェシカは、以前テヨンのチームから脱退したあの子だ。
妹が水の中でもかわいいと、街中で噂になったことがある。

「別の高校で今、売れてる女友達ってダンスチームがあるんだけど、
そこのシンビって子が実は、ジェシカ。

シンビは実は、ジェシカ。
ジェシカはジェシカでも最新のジェシカ。
うそみたいにダンスのキレが上がったのも、もちろん仕様ね。」

また2回言った。
正直混乱した。
頭の中が一瞬ブルーバックのやばい画面になった気がした。
わけがわからない。
会場の時計を見て、今の時刻を小さくつぶやいたような気がするが
何時だったのかもわからない。
体感では、それから数分経ったような気がする。

「押忍だな」
魂の抜けたような声と、やや引きつった顔で僕はそう言った
確かにそう言った。押忍だと。
少しこの状況から逃れたかった。
精一杯のリターン。

「そうかもしれないな。
まあ、世の中のものって突き詰めると、ほとんどが押忍なんじゃないかな。
最新のポルシェが最良のポルシェであるようにね。」

Gはそういって、少し口角を上げた。
何を言いたいのか、今日一でわからなかったけど、何も聞かなかった。

僕は色んな雑念を振り払うように
ただただアイリンを目で追っていた。


おしまいける

*追記
ここ2曲ですっかりレドベル好きになりました。

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